AudioQAM
1. AudioQAM の概要
AudioQAM はオーディオ入力の位相と振幅を同時に変調し,想定外のサウンドを生成する.
直交振幅変調 (Quadrature Amplitude Modulation: QAM) はディジタル通信において広く使用されている.AudioQAM はディジタル直交振幅変調器から派生したもので,オーディオ処理用にリファインされている.AudioQAM は搬送波として正弦波だけでなく,三角波,矩形波,鋸歯状波をサポートしている.
搬送波が正弦波の場合,AudioQAM は位相シフトネットワーク (phase shift network) と本質的に等価となり,既存のボード周波数シフタ (Bode frequency shifter) として動作する.但し,従来型の周波数シフタの低周波数シフトではスペクトルが反転する帯域が生じる.これは通常ノイズと感じられるため,AudioQAM ではスペクトル反転帯域を抑制する自動入力帯域制限をサポートしている.
搬送波が三角波,矩形波,鋸歯状波の場合,出力の周波数スペクトルは,搬送波とオーディオ入力のスペクトルの畳み込みとなり,未知のサウンドを生成する.AudioQAM の自動入力帯域制限は,畳み込みによるスペクトルの重畳も最適化するため,より明確なサウンドを生成する事ができる.
AudioQAM はディジタルオーディオワークステーションの VST 3 plug-in として提供され,全てのサンプリングレートをサポートしている.また,OS 環境は 64 bit の Windows 10 以降となる.
AudioQAM バイナリ―ディストリビューションは Creative Commons Attribution 4.0 (CC BY 4.0) に基づいて無料でライセンスされる.
AudioQAM ソースコードディストリビューションは Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 (CC BY-NC-SA 4.0) に基づいて無料でライセンスされる.
2. AudioQAM のブロックダイアグラム
AudioQAM の片チャネルのブロックダイアグラムを Fig. 1 に示す.
AudioQAM の構造はシンプルである.入力と出力に各々一対の HPF と LPF を備えている.ヒルベルト変換器 (Hilbert Transformer) は,入力信号と,これの π/2 位相遅れの信号を出力する.直接ディジタル合成器 (Direct Digital Synthesizer) は搬送波として,広帯域の正弦波,三角波,矩形波,鋸歯状波の信号と,これらの π/2 位相遅れの信号を高精度で生成する.これらの直交信号はリング変調器 (Ring Modulators) によって振幅変調される.
3. AudioQAM の使用方法
AudioQAM のユーザーインタフェースを Fig. 2 に示す.
青字の数値は全て直接編集できる.
搬送波 (Carrier wave) の周波数 (Frequency) は青色のスライダーからも設定できる.
スライダーのスケール (Scale) は,線形 (Linear) 若しくは対数 (Logarithmic) を選択する.
スライダーのレンジ (Range) は,±50Hz から ±3,200Hz の中から選択する.
搬送波の波形 (Waveform) は,正弦波 (Sine),三角波 (Triangle),矩形波 (Square),若しくは鋸歯状波 (Sawtooth) を選択する.
入力および出力の HPF,LPF はカットオフ周波数 (cutoff frequency) を設定できる.
搬送波が正弦波で,帯域制限 (Band-limiting) が自動 (Automatic) モードの場合,搬送波の周波数に基づいて,入力の HPF のカットオフ周波数が自動的に設定される.同様に,搬送波が三角波,矩形波,若しくは鋸歯状波でこのモードの場合は,入力の LPF のカットオフ周波数が自動的に設定される.後者の場合,入力の LPF が一番重要である.特に,搬送波が矩形波と鋸歯状波の場合,これのカットオフ周波数をキャリア周波数の絶対値程度とすると印象的な風変わりな音が得られる場合がある.
入力の HPF は低域のノイズ抑制,出力の LPF は特に搬送波が矩形波と鋸歯状波の際の高域のノイズ抑制に有効である.
Wet/dry は出力と入力のミックス比を設定する.
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