SpeakerObjects
1. SpeakerObjects の概要
SpeakerObjects は SoundObject のカスタマイズ版であり,ステレオスピーカによる音場のバイノーラル再現に特化している.
ステレオススピーカーからの再生を想定したサウンドをヘッドホンでモニターすると,定位感が損なわれる.同様に,ヘッドホンモニタリングによってミキシングされたサウンドを,ステレオススピーカーから再生すると,サウンドのバランスが崩れる.これらの場合は,モニタリングやミキシングの際にリスニングルームの音響特性の補正が必要であり,SpeakerObjects はこれをサポートしている.
SpeakerObjects はディジタルオーディオワークステーション (Digital Audio Workstations: DAW) の VST 3 plug-in として提供され,44.1KHz, 48KHz, 96KHz のサンプリングレートをサポートしている.また,OS 環境は 64 bit の Windows 11 となる.
SpeakerObjects バイナリ―ディストリビューションは Creative Commons Attribution 4.0 (CC BY 4.0) に基づいて無料でライセンスされる.
SpeakerObjects ソースコードディストリビューションは Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 (CC BY-NC-SA 4.0) に基づいて無料でライセンスされる.
2. SpeakerObjects の使用方法
座 標 系
AES69-2020 [1] に規定された SOFA (Spatially Oriented Format for Acoustics) に基づいた SpeakerObjects の座標系を Fig. 1 に示す.
図に示す通り,SpeakerObjects では球 (リスナーの頭部) の中心は原点に位置する.また,x, y, z 軸方向が各々正面,左,上方向となる.極座標系の半径 r は原点から左スピーカーへの距離,仰角 (Elevation) θ [−90, 90] deg. は x-y 平面から計測され,方位角 (Azimuth) φ [0, 360) deg. はx 軸から反時計回りに計測される.残響室の奥行 (Depth),幅 (Width),高さ (Height) は各々 x, y, z 軸方向の長さとなる.また,球の中心の距離は図に示す点から計測される.
Note: AES69-2020 の仰角の定義は通常の定義とは異なる.
ユーザーインタフェース
SpeakerObjects のユーザーインタフェースを Fig. 2 に示す.
白色の点で示される左スピーカーの位置 (Position of left speaker) は,直交座標 (Rectangular coordinates),極座標 (Polar coordinates),上面図 (Top view) を示す x-y パッド,背面図 (Rear view) を示す y-z パッドの何れからも設定できる.赤色の点は右スピーカーの位置を示し,左スピーカーの対称となる位置に自動的に配置される.これらスピーカーの位置は長方形で示された残響室の内部に制約される.
Reflectance (反射率) スライダーは残響室の反射率を示す.通常 0 dB 以下に設定するが,広い残響室では距離減衰により反射波のレベルが下がるため 0 dB 以上に設定する場合がある.
LPF cutoff frequency (LPF のカットオフ周波数) スライダーは反射波の LPF のカットオフ周波数を示す.但し,∞KHz の場合,LPF 機能は停止する.
距離減衰 (Distance attenuation) スライダーは,距離による直接波と反射波の減衰を示す.−6 dB で左スピーカーまでの距離が 2 倍となった際に半減 (即ち点音源) を,0 dB で無減衰 (即ち面音源) を意味する.
HRIR オプションメニューは,耳介散乱効果フィルタが使用する HRIR データベースを選択する.
Dimensions of reverberation room (残響室の寸法),Center of sphere (球の中心) は座標系で説明した通りである.球の中心は残響室に対して非対称な位置とする事を強くお勧めする.これらに加えて Acoustic speed (音速),Radius of sphere (球の半径) の設定はリアルタイムには更新されず,DAW が停止している際に更新される.
参考文献
[1] Audio Engineering Society, "AES standard for file exchange - Spatial acoustic data file format," AES69-2020, December 2020.
VST is a registered trademark of Steinberg Media Technologies GmbH.