趣味人のブログ

Cogito, ergo sum. 我思う故に我あり.

7. 過渡現象

本章では,初期条件が 0 であり,伝達関数が定義される 1 次遅れ要素のインディシャル応答,ランプ応答,正弦波応答,2 次遅れ要素のインディシャル応答,正弦波応答を示す.次に,初期条件が 0 とならず伝達関数が定義されない 1 次遅れ要素,2 次遅れ要素の零入力応答を示す.最後に,同様に初期条件が 0 とならず伝達関数が定義されない 1 次遅れ要素のインディシャル応答を示し,初期条件,入力が共にある場合の出力は,これらの零入力応答と零状態応答の重ね合わせとなる事を述べる.

7.1. 1 次遅れ要素のインディシャル応答 (単位ステップ応答)

以下の伝達関数で表される 1 次遅れ要素のインディシャル応答を示す.ここで,τ は時定数とする.

(7-1) Gs=YsXs=1τs+1

入力及び出力の原関数を各々 x (t), y (t),これらの像関数を各々 X (s), Y (s) とすると,入力は単位ステップ関数 x (t) = u (t), X (s) = 1 / s であるから,出力 y (t) のラプラス変換 Y (s) は以下で与えられる.

(7-2) Ys=1s1τs+1

ここで,Y (s) を以下の部分分数に展開する.

(7-3) Ys=k1s+k2τs+1

留数定理より k1, k2 は以下で与えられる.

(7-4) k1=lims0sYs=1 k2=lims-1/ττs+1Ys=-τ

よって Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-5) Ys=1s-ττs+1=1s-1s+τ-1

表5‑1 によるラプラス逆変換から,出力 y (t) は以下で与えられる.

(7-6) yt=1-e-tτ,t0

上記の 1 次遅れ要素のインディシャル応答を図7‑1 に示す.横軸の時間は t / τ として正規化されている.図から明らかな通り,出力 y (t) の立ち上がりに要する時間は,時定数 τ に反比例する.即ち時定数が小さいほど立ち上がり時間は早くなる.また,時間 t = τ において y (t) = 1 − e −1 ≃ 0.63 であるから,時定数とは,出力 y (t) が定常状態の約 0.63 倍となる時間となる

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図7-1: 1 次遅れ要素のインディシャル応答.

7.2. 1 次遅れ要素のランプ応答

以下の伝達関数で表される 1 次遅れ要素のランプ応答を示す.ここで,τ は時定数とする.

(7-7) Gs=YsXs=1τs+1

入力及び出力の原関数を各々 x (t), y (t),これらの像関数を各々 X (s), Y (s) とすると,入力はランプ関数 x (t) = t, (t ≥ 0), X (s) = 1 / s2 であるから,出力 y (t) のラプラス変換 Y (s) は以下で与えられる.

(7-8) Ys=1s21τs+1

1 / s2 の極は重極であるから,Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-9) Ys=k1s2+k2s+k3τs+1

留数定理より k1, k2, k3 は以下で与えられる.

(7-10) k1=lims0s2Ys=1 k2=lims0ddss2Ys=lims0-ττs+12=-τ k3=lims-1/ττs+1Ys=τ2

よって Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-11) Ys=1s2-τs+τ2τs+1=1s2-τs+τs+τ-1

表5‑1 によるラプラス逆変換から,出力 y (t) は以下で与えられる.

(7-12) yt=t-τ+τe-tτ=t-τ1-e-tτ,t0

上記の 1 次遅れ要素のランプ応答を図7‑2に示す.横軸の時間は t / τ,縦軸の出力は y (t) / τ として正規化されている.図の赤線は入力のランプ関数を示している.図から明らかな通り,出力 y (t) は t → ∞ で y (t) = tτ に漸近する.よって,定常状態における入力 x (t) と出力 y (t) の間には,y (t) = x (t) − τ の差が生じるため x (t) = y (t + τ) の関係が成立する.

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図7-2: 1 次遅れ要素のランプ応答.

7.3. 1 次遅れ要素の正弦波応答

以下の伝達関数で表される 1 次遅れ要素の正弦波応答を示す.ここで,τ は時定数とする.

(7-13) Gs=YsXs=1τs+1

入力及び出力の原関数を各々 x (t), y (t),これらの像関数を各々 X (s), Y (s) とし,入力を振幅 1 初期位相 0 の正弦波 x (t) = sin (ωt), (t ≥ 0), X (s) = ω / (s2 + ω2) とすると,出力 y (t) のラプラス変換 Y (s) は以下で与えられる.

(7-14) Ys=ωs2+ω21τs+1

1 / (s2 + ω2) の極は複素数であるから,Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-15) Ys=k1s+k2s2+ω2+k3τs+1

留数定理より k1, k2, k3 は以下で与えられる.

(7-16) limsjωk1s+k2 =k2+jωk1 =limss2+ω2Ys =limsjωωτs+1 =ω-jω2τ1+ωτ2 k1=-ωτ1+ωτ2,k2=ω1+ωτ2 k3=lims-1/ττs+1Ys=ωτ21+ωτ2

よって Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-17) Ys=ωτ1+ωτ21s+τ-1+11+ωτ2ωs2+ω2-ωτ1+ωτ2ss2+ω2

表5‑1 によるラプラス逆変換,及び式 (1‑14) に示した三角関数の合成定理から,出力 y (t) は以下で与えられる.

(7-18) yt =ωτ1+ωτ2e-tτ+11+ωτ2sinωt-ωτ1+ωτ2cosωt =ωτ1+ωτ2e-tτ+11+ωτ2sinωt+tan-1-ωτ,t0

上記の右辺第 1 項は t → ∞ で 0 に収束する指数的減衰を,右辺第 2 項は正弦波振動を示している.入力は振幅 1 初期位相 0 の正弦波であるから,右辺第 2 項の正弦波振動の絶対値と偏角は,式 (6‑48) に示した 1 次遅れ要素の周波数伝達関数の絶対値と偏角と各々一致する.

ω τ = 10 における,上記の 1 次遅れ要素の正弦波応答を図7‑3に示す.横軸の時間は t / τ として正規化されている.また,図の赤線は正弦波入力を示しており,正弦波応答と視覚的に比較するために振幅を 1/10 に縮小して表示してある.

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図7-3: 1 次遅れ要素の正弦波応答.

7.4. 2 次遅れ要素のインディシャル応答 (単位ステップ応答)

以下の伝達関数で表される 2 次遅れ要素のインディシャル応答を示す.ここで,ω0 は無減衰固有角周波数,ζ は減衰比とする.

(7-19) Gs=YsXs=ω02s2+2ζω0s+ω02

入力及び出力の原関数を各々 x (t), y (t),これらの像関数を各々 X (s), Y (s) とすると,入力は単位ステップ関数 x (t) = u (t), X (s) = 1 / s であるから,出力 y (t) のラプラス変換 Y (s) は以下で与えられる.

(7-20) Ys=1sω02s2+2ζω0s+ω02

ζ > 1 の場合

G (s) の極は実数で単極となるから,Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-21) Ys =1sω02s2+2ζω0s+ω02 =1sω02s+ω0ζ-ζ2-1s+ω0ζ+ζ2-1 =k1s+k2s+ω0ζ-ζ2-1+k3s+ω0ζ+ζ2-1

留数定理より k1, k2, k3 は以下で与えられる (式の展開は省略).

(7-22) k1=lims0sYs=1 k2=lims-ω0ζ-ζ2-1s+ω0ζ-ζ2-1Ys=-ζ+ζ2-12ζ2-1 k3=lims-ω0ζ+ζ2-1s+ω0ζ+ζ2-1Ys=ζ-ζ2-12ζ2-1

よって Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-23) Ys=1s-ζ+ζ2-12ζ2-11s+ω0ζ-ζ2-1 +ζ-ζ2-12ζ2-11s+ω0ζ+ζ2-1

表5‑1 によるラプラス逆変換から,出力 y (t), (t ≥ 0) は以下で与えられる.

(7-24) yt=1-ζ+ζ2-12ζ2-1e-ω0ζ-ζ2-1t+ζ-ζ2-12ζ2-1e-ω0ζ+ζ2-1t

ζ = 1 の場合

G (s) の極は実数で重極となるから,Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-25) Ys=1sω02s+ω02=k1s+k2s+ω02+k3s+ω0

留数定理より k1, k2, k3 は以下で与えられる.

(7-26) k1=lims0sYs=1 k2=lims-ω0s+ω02Ys=-ω0 k3=lims-ω0ddss+ω02Ys=lims-ω0-ω02s2=-1

よって Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-27) Ys=1s-ω0s+ω02-1s+ω0

表5‑1 によるラプラス逆変換から,出力 y (t), (t ≥ 0) は以下で与えられる.

(7-28) yt=1-ω0te-ω0t-e-ω0t=1-1+ω0te-ω0t

ζ < 1 の場合

G (s) の極は複素数となるから,Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-29) Ys=k1s+k2s+k3s2+2ζω0s+ω02

留数定理より k1 は以下で与えられる.

(7-30) k1=lims0sYs=1

また,係数比較によりk2 = −1, k3 = −2 ζ ω0 となる.ここで式 (7‑29) の右辺第2項を式 (5‑22) の形式に展開する.

(7-31) -s+2ζω0s2+2ζω0s+ω02=K1s-σs-σ2+ω2+K2ωs-σ2+ω2

式 (5‑23) より σ, ω, K1, K2 は以下で与えられる.

(7-32) σ=-2ζω02=-ζω0 ω=4ω02-4ζ2ω022=ω01-ζ2 K1=-1 K2=14ω02-4ζ2ω02-4ζω0+2ζω0=-ζ1-ζ2

よって Y (s) は以下の部分分数に展開される.

(7-33) Ys=1s-s+ζω0s+ζω02+ω021-ζ2-ζ1-ζ2ω01-ζ2s+ζω02+ω021-ζ2

表5‑1 によるラプラス逆変換,及び式 (1‑14) に示した三角関数の合成定理から,出力 y (t), (t ≥ 0) は以下で与えられる.

(7-34) yt =1-e-ζω0tcosω01-ζ2t-ζ1-ζ2e-ζω0tsinω01-ζ2t =1-e-ζω0t1-ζ2sinω01-ζ2t+tan-11-ζ2ζ

応答のグラフ

以上の 2 次遅れ要素のインディシャル応答を図7‑4に示す.横軸の時間は ω0 t として正規化されている.図からも明らかな通り,ζ < 1 の場合は出力 y (t) は振動的となる.尚,振動解析では,ζ > 1 を過減衰,ζ = 1 を臨界減衰,0 < ζ < 1 を減衰振動,ζ = 0 を単振動と呼ぶ.

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図7-4: 2 次遅れ要素のインディシャル応答.

 

以下に続く.

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