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Cogito, ergo sum. 我思う故に我あり.

4. 線形時不変システムと定数係数線形常微分方程式

本章では,先ず 4.1 において線形時不変システムの定義とその意味を述べる.次に 4.2 において線形時不変システムの入出力の関係の記述に用いられる定数係数線形常微分方程式の概要を示す.そして 4.3,4.4 において定数係数線形常微分方程式の一般解の解法を復習し,4.5 において線形時不変システムの記述の観点からこの解法の意味を述べる.最後に 4.6 において,定数係数線形常微分方程式によって記述されるシステムは,初期条件がすべて 0 であれば線形時不変システムの条件を満たし,さもなければ,初期条件による出力への影響が無視できる定常状態において,線形時不変システムと見做せる事を示す.

4.1. 線形時不変システムの定義

入力の時間関数 x (t) に対する出力の時間関数が y (t) となるシステム G において,これら時間関数の関係を式 (4‑1) の形式で表示するものとする.

(4-1) xtyt

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図4-1: 線形時不変システム.

ここで,システム G における入力 x1 (t), x2 (t),出力 y1 (t), y2 (t) が以下の関係を満たす場合,システム G を線形システムと言う.ここで a, b は定数である.

(4-2) x1ty1t x2ty2t ax1t+bx2tay1t+by2t

上記の定義は,入力を a 倍したら出力も a 倍される直線性を有し,かつ複数の入力が加えられた場合の出力は,個々の入力が加えられた際の出力の和となる,重ね合わせの原理が成立するシステムを規定している

また,システム G における入力 x (t),出力 y (t) が以下の関係を満たす場合,システム G を時不変システムと言う.ここで τ は定数である.

(4-3) xtyt xt-τyt-τ

上記の定義は,入力と出力の関係が,時間 t の原点の取り方に依存しないシステムを規定している

Note: 線形時不変システムに該当しないシステムの例として,信号間で乗算が行われるシステムや,非線形性を利用しているシステムが挙げられる.具体的な例としては,変調回路 (振幅変調,周波数変調,位相変調を問わず),復調回路,周波数変換回路,周波数逓倍回路,整流回路,対数増幅回路等が挙げられる.

4.2. 定数係数線形常微分方程式

線形時不変システムの入力の時間関数 x (t)出力の時間関数 y (t) の関係は,下記の常微分方程式で記述される.下記の常微分方程式y (t) を未知関数とし,これとその導関数の一次式から成るため,線形常微分方程式であり,かつ an, ..., a0 は定数であるため,定数係数線形常微分方程式と呼ばれる.

(4-4) andndtnyt+an-1dn-1dtn-1yt+ +a1ddtyt+a0yt=xt

以降,上記の常微分方程式を下記の様に記す.

(4-5) anynt+an-1yn-1t+ +a1y't+a0yt=xt

これは一見非常に難解な式であるため,直感的な理解のために,上記の式の意味を大雑把に説明する.式 (4‑5) の出力 y (t) を正弦波と考える.2.4 に述べた通り,正弦波を時間微分しても角周波数は変化しない.何回微分しても角周波数は同じである.また,式 (4‑5) の左辺はこれらの一次結合を表している.1.3 及び 2.5 に述べた通り,角周波数が等しい正弦波を合成すると,これらと角周波数が等しい正弦波となる.これは,正弦波が変位によって表示される場合でも,正弦波の複素数表示の場合でも同様に成立する.

この様な予備知識を持って再度式 (4‑5) を見ると,この式は,入力 x (t) を正弦波とした場合,出力 y (t) がこれと角周波数が等しい正弦波となるシステムを示している事が容易に理解できる.振幅と初期位相は変化するかも知れないが角周波数は変化しない.式 (4‑5) はこの様な単純な関係を一般的な形式で記述しているだけなのである.

残念ながら,以上の説明に誤りは無いのだが,定数係数線形常微分方程式には無数の解があり,上記はその特殊解の一つについて述べているだけで,網羅性を欠いている.解によっては,定数係数線形常微分方程式で記述されたシステムが,線形時不変システムの条件を満たさない場合もある.そこで,以下定数係数線形常微分方程式の解法を復習し,線形時不変システムとの関係をより正確に示す.

4.3. 定数係数線形常微分方程式の解法 (同次方程式)

Note: 定数係数線形常微分方程式初期値問題における特殊解を求める方法としては,以下の教科書的解法より,5 章に示すラプラス変換による解法の方の手順が定型化しているため習熟が容易である (尚,計算の手間はどちらでも大差ない).このため,以下の解法に習熟する必要は無いが,定常状態の解を求める場合は以下の方が容易である事,またラプラス変換において,以下の一般解を求める過程で使用される特性方程式に関する知識が必要となるため,基本的な考え方を理解しておく必要はある.

説明を簡単にするため,下記の 2 階定数係数線形常微分方程式一般解の解法を示す.高階の場合も解法は原理的に同じである.

(4-6) a2y''t+a1y't+a0yt=xt

上記の常微分方程式の解法のステップは以下の通りとなる.

  1. 式 (4‑6) の入力を x (t) = 0 とした同次 (斉次) 方程式を解き,これの一般解yc (t) とする.
  2. 非同次方程式である式 (4‑6) の特殊解の一つを求め,これを yp (t) とする.
  3. 重ね合わせの原理により,式 (4‑6) の一般解y (t) = yc (t) + yp (t) とする.

先ず,最初のステップとして,式 (4‑6) の入力を x (t) = 0 とした,下記の同次方程式の一般解の解法を示す.

(4-7) a2yc''t+a1yc't+a0yct=0

上記の同次方程式の特殊解yc (t) = e st の形となる事が既知であるため,これを上記に代入する.

(4-8) a2s2est+a1sest+a0est=a2s2+a1s+a0est=0

よって,s を求めるには下記の方程式を解けば良い.下記は式 (4‑7) の特性方程式と呼ばれる.

(4-9) a2s2+a1s+a0=0

特性方程式の解が異なる実数の場合

特性方程式における s の実数解を各々 α, β とすると,同次方程式 (4‑7) の一般解は下記の通りとなる.ここで C1, C2 は任意定数である.

(4-10) yct=C1eαt+C2eβt

特性方程式の解が実数の重解の場合

特性方程式における s の重解を α とすると,同次方程式 (4‑7) の一般解は下記の通りとなる.ここで C1, C2 は任意定数である.

(4-11) yct=C1eαt+C2teαt=C1+C2teαt

特性方程式の解が共役複素数の場合

特性方程式における s の共役複素数の解を σ ± とすると,オイラーの公式より,同次方程式 (4‑7) の一般解は下記の通りとなる.ここで C1, C2 は任意定数である.

(4-12) yct=eσtC1cosωt+C2sinωt

上記に式 (1 14) に示した三角関数の合成定理を適用しても良い.

高階の定数係数線形常微分方程式の場合

高階の場合は重解の扱いが必要となる.例えば s が実数の 4 重解の場合は,一般解は下記の形式となる.

(4-13) yct=C1+C2t+C3t2+C4t3eαt

同様に,例えば s 複素数の 2 重解の場合は,一般解は下記の形式となる.

(4-14) yct=eσtC1cosωt+C2sinωt+teσtC3cosωt+C4sinωt

他にも解がある場合は,それらの一次結合が一般解となる.

4.4. 定数係数線形常微分方程式の解法 (非同次方程式)

次のステップとして,非同次方程式である式 (4-6) の特殊解の一つを求める方法を示す.これには定数変化法と未定係数法という異なる方法がある.前者は正攻法であるが極めて煩雑であるため,本資料では未定係数法について述べる.

未定係数法とは,式 (4‑6) の入力 x (t) の形に応じて,非同次方程式の特殊解 yp (t) の形を推定して,式 (4‑6) に代入して yp (t) を求める方法である.

x (t) が多項式の場合

例えば,x (t) が 2 次の多項式 x (t) = t 2 + 2 t + 1 の場合,多項式微分しても多項式となるから,非同次方程式の特殊解 yp (t) を 2 次の多項式 yp (t) = A t 2 + B t + C と推定し式 (4‑6) に代入して,これらの係数を求める.

x (t) が指数関数の場合

例えば,x (t) が x (t) = e at の場合,指数関数を微分しても指数部が等しい指数関数となるから,非同次方程式の特殊解 yp (t) を指数関数 yp (t) = C e atと推定し式 (4‑6) に代入して,この係数を求める.

x (t) が正弦関数,余弦関数の場合

例えば,x (t) が x (t) = sin (ωt) や x (t) = cos (ωt) の場合,正弦関数や余弦関数を微分しても角度が同じ余弦関数や正弦関数となるから,非同次方程式の特殊解 yp (t) を yp (t) = A sin (ωt) + B cos (ωt) と推定し式 (4‑6) に代入して,これらの係数を求める.

x (t) が上記の一次結合となる場合

例えば,x (t) が x (t) = e at + sin (ωt) の場合,重ね合わせの原理により,非同次方程式の特殊解yp (t) = yp1 (t) + yp2 (t) とし,上記と同様に yp1 (t) = C e atyp2 (t) = A sin (ωt) + B cos (ωt) と推定し式 (4‑6) に代入して各々の係数を求める.

尚,上記で推定した非同次方程式の特殊解 yp (t) の係数を除く形式が,同次方程式の一般解 yc (t) の各項の任意定数を除く形式と同一となってしまう場合は,推定した特殊解を t 倍する.

最後のステップとして,非同次方程式の特殊解 yp (t) が求められ場合は,式 (4‑6) の非同次方程式の一般解y (t) = yc (t) + yp (t) となる.

4.5. 定数係数線形常微分方程式の解法の意味

以上の定数係数線形常微分方程式の解法は,非常に煩雑であり,かつ果たしてこれが本当に数学なのかと疑念を抱きたくなる内容であるため,線形時不変システムの記述という観点から上記の解法の意味を述べる.

同次方程式の一般解 yc (t)

特性方程式の解が実数解,重解,共役複素数何れの場合でも,α < 0, β < 0, σ < 0 であれば,これらの式の形式から明らかな通り,同次方程式の一般解 yc (t) は t → ∞ で 0 に収束する出力を表している.このため,制御工学や電気工学では,同次方程式の一般解を yc (t) を過渡解と言う場合がある.

Note: 式 (4‑11) や (4‑13) に現れる t n e −st, (s > 0) は一見 t → ∞ で不定となる様に思えるが,下記の通りロピタルの定理で分子分母を n微分すれば 0 に収束する.

(4-15) limttne-st=limttnest=nslimttn-1est=n!snlimt1est=0

Note: α < 0, β < 0, σ < 0 以外の場合は t → ∞ で出力が発散,若しくは 0 に収束せず実用的では無いため,制御工学や電気工学ではこの様な場合は一般には扱わない.

非同次方程式の特殊解 yp (t)

未定係数法による非同次方程式の特殊解 yp (t) の解法は,線形時不変システムの観点からは,入力 x (t) を与えて,これに対する出力 yp (t) を求める方法と見做せる.ここで,出力 yp (t) は特殊解であり任意定数を含まないため,微分方程式の初期条件に依存しない.従って,非同次方程式の特殊解 yp (t) は入力のみに依存し,定常状態における出力を表すため,制御工学や電気工学ではこれを定常解と言う場合がある.

4.2 に述べた定数係数線形常微分方程式の大雑把な説明は,上記の非同次方程式の特殊解 yp (t) に関するものである.尚,入力 x (t) は正弦波に限らない.直流を入力する場合は,入力 x (t) を定数とすれば良い.定数は多項式の一つである.

Note: 3章に示した定常状態における交流回路は,コイルやコンデンサに加わる電圧や流れる電流の関係を入力や出力と見做せば,定数係数線形常微分方程式で記述されたシステムとなる.3.2や 3.3の複素正弦波交流における式の展開,例えば式 (3‑9) の微分方程式に対して,式 (3‑11) や (3‑14) の様に正弦波の時間関数を代入している箇所,は未定係数法と類似の方法で,非同次方程式の特殊解 yp (t),即ち定常解を求めていると解釈できる

非同次方程式の一般解 y (t)

前に述べた通り,非同次方程式の一般解 y (t) は,同次方程式の一般解 (過渡解) yc (t) と非同次方程式の特殊解 (定常解) yp (t) の和となる.ここで,非同次方程式の一般解 y (t) を初期条件の下で解いた初期値問題の特殊解は,定数係数線形常微分方程式で記述されたシステムの過渡現象を示す

Note: 同次方程式の一般解 (過渡解) yc (t) が過渡現象を示す訳では無い事に注意せよ.過渡解という用語は誤解を招きやすい.

Note: システムの過渡現象を求めるために,同次方程式の一般解 (過渡解) yc (t) に対する初期値問題を解いても誤りとなる.それは x (t) = 0,即ちシステムに入力が無い際の出力 y (t) を求めるという,別の問題を解いている事になる.

以上,定数係数線形常微分方程式の解法に対して,線形時不変システムの記述という観点からの意味を明らかにしたが,この様な観点からこの解法を見ると,これが果たして本当に数学なのかという疑念は益々深まるのである.

4.6. 線形時不変システムと定数係数線形常微分方程式の関係

定数係数線形常微分方程式の解法は,これの同次方程式や非同次方程式の特殊解に対して,微分演算の線形性や重ね合わせの原理が成り立つ事を利用して一般解を求めている.しかし,これだけでは定数係数線形常微分方程式で記述されたシステムが4.1に示した線形システムの条件を満たしているとは言えない.何故ならば,実際のシステムの出力 y (t) は初期値問題における特殊解となり,初期条件によっては,入力 x (t) = 0 の際に出力 y (t) = 0 とならない場合,即ち入力が無くても出力が現れる場合があり,この様なシステムでは,重ね合わせの原理は当然成立しないからである.

Note: 線形システムの条件を満たさない具体的な例として,初期状態においてシステムを構成する回路中のコンデンサ電荷が蓄えられており,入力と無関係にコンデンサの放電による出力が現れる場合が挙げられる.

Note: 定数係数線形常微分方程式の係数は定数であり時間に依存しないため,時不変システムの条件は満足される.

このため,定数係数線形常微分方程式で記述されたシステムが,入力 x (t) = 0 において,出力 y (t) = 0 となれば,線形時不変システムの条件を満たす.4.3 に示した同次方程式の一般解 (過渡解) yc (t) を初期条件の下で解いた初期値問題の特殊解は,入力 x (t) = 0 における出力を示す.このため,この同次方程式の特殊解yc (t) = 0 となれば線形時不変システムの条件を満たす事になる.式 (4‑7) を以下に再度示す.

(4-16) a2yc''t+a1yc't+a0yct=0

上記の同次方程式の特殊解yc (t) = 0 となる場合は以下も成立する.

(4-17) yc''t=yc't=yct=0

従って,(4‑16) の同次方程式の初期値問題を下記の初期条件で解いた場合,特殊解は yc (t) = 0 となる.

(4-18) yc'0=yc0=0

即ち,t = 0 における初期条件が全て 0 となる定数係数線形常微分方程式によって記述されたシステムは線形時不変システムの条件を満たす.また,初期条件が 0 とならず,同次方程式の特殊解yc (t) = 0 とならない場合であっても,4.5 に述べた通りこれは実用的な条件下では t → ∞ で 0 に収束するため,この影響が無視できる定常状態において,線形時不変システムの条件を満たすと見做せる.

Note: t = 0 における初期条件が全て 0 の場合,同次方程式の特殊解が yc (t) = 0 となる事は,システムからの出力が非同次方程式の特殊解 (定常解) yp (t) による出力のみとなり,過渡現象が無くなる事を意味している訳では無い.この場合のシステムからの出力は非同次方程式の一般解 y (t) において,初期条件を全て 0 とした初期値問題の特殊解となる (y (t) の一般解におけるyc (t) は一般解であり,特殊解では無い).